なぜ人生は底知れないほど寂しいのか

2020年12月28日月曜日

宗教



独生・独死・独去・独来 (どくしょう・どくし・どっこ・どくらい)
独り生まれ、独り死す、独り来たりて 独り去る


人生の孤独を説いた仏教の教え『独生独死独去独来』

『独生・独死・独去・独来』とは、人間の孤独を説かれた釈迦の教説です。お釈迦様は「人生は底知れないほど寂しいところである」と説かれました。今回は仏教の明らかにした「孤独」について話をします。

「心の連れ」がいない、とは【お互い心の底から分かり合える人がいない】ということです。同じ屋根の下に住んでいる夫婦でも、住んでいる世界は違います。 夫は夫の生み出した世界に住んでおり、妻は妻の生み出した世界に住んでいるのです。夫が会社で辛いことがあり、ふさぎこんで家に帰ってくる。どうせこの苦しみを妻に言ったって、わかりっこないと黙ったまま、メシ、フロ、ネルで寝てしまう。奥さんは、奥さんで、姑とのことで悩んでいる。
それを、夫に相談しようと思っていたのに、夫が不機嫌そうにしてすぐ寝てしまうので、やりきれない気持ちになる。 「私のことなんか、ちっともわかってくれない」と心が叫ぶ。夫は夫で、「妻なんかおれの気持ちを分かってくれない」妻は妻で、「夫は私の気持ちなんか分かってくれない」お互いに悩んでいます。 わかってくれない、わかってくれない、と相手に怒りをぶつけています。

こんな時、心を反転してこう自問してみたらどうでしょう。 「あなたがわかってくれないと苛立っている相手の悩みを、どれだけわかってあげられていますか?」 「相手の悩みをわかってあげようと努めてますか?」 そうすると、相手のことをわかってあげられていない、なんとかわかってあげたいと悩んでもいない、向こうに悩みなんかあるんかい、程度にしか考えていない、そんな自己を発見するのではないでしょうか。。 それでいて自分だけが「わかってくれない冷たい人だ」と怒りの刃を向けているとしたら、ムシがよい話しです。

同じ屋根の下、共に暮らす夫婦も、やはり『独生・独死・独去・独来』、心底からわかり合える心の連れではない、とお釈迦さまは説かれています。

文明文化の進歩も人生の孤独を埋められないと説く仏教

何の題名かは忘れましたが、あるヨーロッパの映画にこんなのがありました。
ロシアの田舎の村に住んでいる娘は、パリに留学にいった彼氏と手紙で文通をするのですが、その田舎の村には、1週間に1回、水曜日にしか郵便配達員が来ません。 娘にとって水曜日は、 彼からの手紙が来る、胸躍る特別な日でした。
水曜日になると、いじらしくも何時間も前から、今か今かと娘はポストマンを待つのでした。 ところが、半年くらいは毎週届いていた彼からの手紙が、3週間たっても、4週間たっても届かなくなりました。 実は、彼はパリで他の女性と暮らすようになっていたのです。 そんなこととはつゆ知らず、彼女は、何かの手違いがあったのだろうと、毎週毎週丁寧な手紙を送リ続けます。
そんな映画でした。

水曜日の夜は、手紙の来なかった寂しさで顔を暗くしていた娘も、木曜日や金曜日には、来週の水曜を楽しみに待とうと気持ちを切り替え、日常生活を明るく過ごすこともできました。
そういう点、手紙で心のやりとりをしている時代は、まだ希望が持てました。

20年前くらいに「ポケベル」が普及し、「ポケベルが鳴らなくて」という歌も流行りました。 「ポケベルが鳴らなくて、恋が待ちぼうけしてる」 ポケベルに彼からの返信がなく、寂しくなってくる心境を、「恋が待ちぼうけしている」と歌って、共感した人も多かったのです。

しかし、まだその時も「近くに公衆電話ないのかも」「エリア外にいるのかもな」と、気持ちを切り替えることもできました。
現今はスマホでLINEやメールの時代になり、公衆電話も要らなくなり、エリア外などほとんどなくなり、「既読」のサインも出ます。 それなのにメールの返信がまだこない、 となったら、どうでしょう。
通常がこのロシアの娘の水曜日の夜のような心境になってしまいます。 「さびしい」と送っても、「どうしたの?」の1通の返信がない(なんで!?10時間も15時間も過ぎているのに….) 携帯のメールが誰かから届くたびに「彼かな」と思って開くのですが、違う人。 朝起きて「届いているかな」と思って開いてみても届いていない。
一週間に一回は寂しい思いをしても、翌週の水曜日に希望をつなげることができた昔のロシアと、四六時中、返信がないのを寂しく、悲しく、憤りを感じなければならない現代と比較すると、現代の方がよけいに孤独感が募るのではないでしょうか。

手紙よりはポケベル、ポケベルよりも携帯と、より分かり合いたくて、より寂しくなりたくないと思って科学は発達してきたはずなのに、いよいよ孤独が深まっているという、皮肉な結果になっているようです。

哲学者の三木清は「山の中の孤独より、町の中の孤独の方がもっと深い」といいました。 「一人の孤独よりも、二人の孤独はより深い」という言葉もあります。
山の中で1人の時は、里に出れば寂しくない、という希望もありますが、町の中で大切な人に囲まれていても、わかりあえない寂しさはとてつもなく深いのです。

現代はインターネットもインフラ整備され、世界がグローバル化して、世界中の人とリアルタイムでコミュニケーションが取れる時代となり、それがいっそう、「独生独死独去独来」の釈迦の教説を浮き彫りにしてしまいました。 現代人はこの心の孤独をどう解決しようとしているのでしょうか。

心の蔵を固く閉ざしているから人生は孤独になると説く仏教

どんなにおしゃべりな人でも、本当に自分に都合の悪いことは言わないものです。 自分の欠点や失敗話をさらすことはありますが、ちゃんと計算済みです。 「こんなに謙虚なんですよ」のアピールといえましょう。
仏教で言われる『卑下慢』です。

「私ってさー、秘密を作れないタイプでしょ?だから何でもしゃべってしまうの」と言ってますが、それは人が言ってほしくないスキャンダルはしゃべってしまう、というのであって、あるいは自分の自慢話を黙っておけない、というのであって、これをしゃべると自分が明らかに損をする、低く見られる、ということなら、どんなおしゃべりな人でも言わないものです。

“そんなことはない。私はあの人なら何でも言えるよ。”という人は、言えるところまでは何でも言える、ということです。
自分の本心を自分でも知らないから、そんなことが言えるのでしょう。 “これだけは死んでも人には言えない”というものを誰でも持っています。

本心を知られると皆あきれて、背を向けて逃げ出すに違いない。 人から悪く思われたくない。 そして悪口言われたくない。 だから人は一生懸命本心を隠そうとやっきになっています。

仏教では、人は一人一人心の奥底の秘密の蔵があって、その扉に頑丈に鍵を閉めて、誰にも見せないようにしている、と説きます。

「独生独死独去独来」
(どくしょうどくしどっこどくらい)


だからみな孤独なのです。

独りぼっちの人生、独生独死独去独の孤独な人生に解決の道はあるか

「起きて見つ 寝て見つ 蚊帳の広さかな」

歌人、加賀の千代女の歌です。
18歳のとき、結婚した千代女は、わずか2年で夫と死別します。
その時のやりきれない寂しさがひしひしと伝わってくる歌です。

夫がいるときは同じ蚊帳の中、布団を並べて寝ていたので、手を伸ばせばそこにいるし、夫の寝息も聞こえてきた。 それが今は、夜中にふと目を覚ますと、部屋の中に一人きりだ。
あれ、なんでこんなに部屋が広いんだろう、そうだ、もう夫はいないんだな、とまた寝てみる。
一人ぼっちが思い知らされ、寂しさが募り、寝付けなくなることを「起きて見つ 寝て見つ蚊帳の 広さかな」と詠ったのでしょう。

「セキをしても一人」という歌も、さびしい感があります。
そばに夫がいるときはセキをすれば「どうしたの?風邪?」と案じてくれたのに、今はセキをしても、誰も何も言ってくれない。 「あー、風邪かな」と一人、ボソッと独言をつぶやくのみ。

『父母恩重経』には、子供が結婚して家を出て行き、夫が妻に先立たれ、あるいは妻が夫に先立たれ、老いた親が一人ぼっちで空っぽの家に住まいしている、さびしい心境が切々と説かれています。

「父は母を先立て、母は父を先立てて、独り空房を守り居るは、なお孤客の旅寓に寄泊するが如し。常に恩愛の情なく、また談笑の娯しみ無し」 (父母恩重経)

「母に先立たれた父、父に先立たれた母が、実家に一人ぼっちで住まいしているのは、孤独な旅人が旅先の宿で、独り長い夜を過ごすようなものだ。そこには、心の通い合いはない、談笑する楽しみもない」と釈尊は言われています。
無縁社会、孤独死、と今日の世相を言われますが お釈迦様の時代から変わらぬ『独生独死独去独来』の人間の実相です。

ではこの底知れないほど寂しい人生が、どうしたら無限に楽しい人生になるか、仏教の驚くべき答えはこちらです。

生きる意味が分かる親鸞の教え」より転載
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